「高崎店長のお部屋」 〜 濱川学院 ✖️ジュンク堂 コラボレート企画* 〜 

 

 瓦町FLAG3階にありますジュンク堂書店 高松店の高崎立郎店長のブックレビュー付き、おすすめ本のコーナーです。 

毎月2冊、数多くあるジュンク堂の蔵書の中から、選りすぐりの一冊をご紹介いただき、店長みずから執筆された「ブックレビュー」をUPしていきます。

また、BIBLIO店内に「高崎店長のお部屋コーナー」を増設いたしました。このページでご紹介いただく本は、すべて随時入荷していきます。

本屋の店長さんがお勧めする本を読める機会は滅多にないと思います。BIBLIOにお越しいただければ、こちらの本と共に、じっくりと本の世界に入り込むことができますよ。

みなさんのご来店、スタッフ一同お待ちしております・

 

ジュンク堂高松店 Twitter

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*南新町・田町・常磐町の南部3町商店街と、瓦町 FLAG のジュンク堂書店高松店が展開する「ジュンク堂書店×商店街」コラボレーション企画「濱川学院 meets ジュンク堂書店」

NOVEMBER in 2019

「孤独なバッタが群れるとき」東海大学出版部:前野ウルド浩太郎

 

新書大賞2018を受賞した「バッタを倒しにアフリカへ」の前日譚。

一介の大学院生が少しずつ研究者として成長していく過程を描く、抱腹絶倒ビルドゥングスロマンであり、昆虫学の専門書とは思えないほど軽妙な筆致で描かれる、良質な科学入門書である。

しかしながら「バッタを倒しに~」以上の知的興奮が味わえるところは専門書の面目躍如たるところ。師匠の手を借りながらも次々と新発見を繰り返し、仮説を実験で裏付けしていくその手続きはとても鮮やかで、面白すぎる文章の裏に隠された著者の凄さをひしひしと感じるのだ。

昆虫に興味のない方や、今後科学分野に進みたいと考えている学生にぜひ読んでほしい一冊。ただいま海外武者修行中である著者の復帰が待たれる。

 

高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)

「絵を見る技術」朝日出版社

著者:秋田 麻早子

 

素人が生身で絵画と向き合うことはなかなか難しい。

初見で感じた印象から次は、絵の横に架けられた「この作品が書かれた頃、画家は云々」といったパネルを読んでやっと理解した気になる…その繰り返し。

この本は、そんな我われ素人が身につけるべき、絵画をきちんと見るために必要な「ビジュアルリテラシー」の基本について、一から教えてくれる良書。

例えば第一章は、「この絵の主役はどこ?」と題されており、まず着目すべき絵画の焦点について解説が始まる。

光がばっちり主役に当たっている絵はわかりやすいが、そうでない場合は何を頼りにすればよいのか。丁寧な解説と共に、具体例となる絵画も多数掲載されており、「どんどん身についてくる」感覚が味わえる。

美術史や図像学、画家の生涯といった知識がなくとも、「その名画が名画たる条件」を判別する力が身につく、人生を変える一冊だ。  

高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)

 

DECEMBER in 2019

「ほがらか人生相談」朝日新聞出版

著者:鴻上 尚史

 

鴻上尚史の「あとがき」が好きだった。

よく読んでいたのは大学生の頃だ。「ハッシャ・バイ」「トランス」「スナフキンの手紙」などの戯曲を買い、読みふけっていた。実際の舞台はどれも行かずじまいだった。

どこで公演されているかも知らず、調べる手段も気概もなく、そもそも観劇に回せるお金がなかった。90年代後半当時、それらの舞台は既に過ぎ去ったものだった。

私は古生物学者が生痕化石を見て恐竜の生活を想像するように、安いアパートの部屋に独りこもって戯曲を楽しんでいた。戯曲の最後には必ずあとがきがついていて、なぜこの戯曲が書かれたのか、また演劇とは何かということについて、とても明解に、且つ詩情豊かに書かれていた。そしてまた、劇団主催として若い役者に囲まれ、彼ら彼女らとともに様々なトラブルに直面し、一緒に悩みながら舞台を作ってきた苦難の吐露でもあった。

本書を読むと、その「あとがき」を思い出す。

「人生相談」を受け止め、整理し、問題を分け、ひとつひとつの原因を可視化し、解決の可能性をそれぞれ共に探る。この「ほがらか人生相談」のあとがきにあるように、これは著者がずっと舞台で行ってきた「演出」と実は不可分であり、だからこそ私達はプロの仕事に胸を打たれるのだ。  

高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長) 

JANUARY in 2020

 

「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」

ショセキカプロジェクト:編  日本経済新聞社

 

タイトルだけで惹かれてしまう。

一線で活躍する大阪大学の研究者たちが『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』というテーマで、様々なエッセイを寄稿した本。元は同大学の学生たちが「自分たちで本を作るプロジェクト」として大阪大学出版界から出版されたものが文庫化し、手に取りやすくなった。

そもそものテーマが矛盾をはらんでいるため、「次はどんな屁理屈で自分の研究フィールドに話を持っていくのか」という話の展開が楽しい。みんな残す気もないし食べる気すらなかったりする。

個人的には化学の話(「ドーナツ型オリゴ糖の穴を用いて分子を捕まえる」)が面白かったしワクワクした。大学一年生向けに編まれたというものなので、どのエッセイも専門的すぎず門外漢でも読めるわかりやすさとなっている。誰が読んでもどれか一つは引っかかるものがあるだろう。

       高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長) 

 「白鯨」

ハーマン・メルヴィル

10代の頃、「世界の名作文学」を読もうとしてある本で挫折した。それが『白鯨』だった。完全に読み方をわかっていなかった。国語の授業で習うような読み方しか私にはなく、白鯨はそれとは全く逆の、洋上の嵐に揉まれて磨かれ抜いた言葉たちであり、テクストであった。

それから10年以上経ち、改めて挑んだ白鯨は素晴らしかった。「世界の名作文学」だなんて構える必要もない、素直に笑えて素直にむさ苦しい小説だった。船は(誰もが知るように)狂気のエイハブ船長の元で破滅へと向かうのだがその過程が、一つ一つの語り口が楽しい。船に乗り込む前から、安宿で食人族の銛打ちクィークェグと同衾する羽目になり(しかもその後親友になるあたり)爆笑である。

古典はたしかに偉大だ。だがその偉大さは「権威的である」という意味ではなく、普遍的な親しみや可笑しさで、時空を超えて輝き続けるという点において見出されるものなのだ。

       高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長) 

FEBRUARY in 2020

 

「昼の家、夜の家」

オルガ・トカルチュク

「さあ今からポーランドの小説を読むぞ」と身構えてしまうと「二つの大国に挟まれ歴史を奪われてしまった国の、アイデンティティを探るお話」として読んでしまいがちだ。

それはそれとして文学的価値のあることかもしれないが、「昼の家、夜の家」での読書はテクストに充満する空気を味わうことに終始してしまった。

「空気」とは森林とその中心たるキノコの気配だ。夜、都市部で人々がインターネットを介して繋がる時も、森林の風─木々の葉や樹皮、それに湿った土の匂い─が同時に紡がれていく。そしてキノコ。

キノコが重要な小道具としてしばしば登場する。それは主人公の住まいの傍らにあり、森林と都市を、また現代と中世を行き来するこの物語において、インターネット以上に主人公の内面世界を拡張する。一言で済ませればこれは幻視の物語なのかもしれない。

しかしながら常にキノコの気配を感じ、キノコが纏う森林の風を感じながら、重厚で多層的な海外小説を読み進めるという体験はなかなか得難いものであった。

       高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長) 

 

「分別と多感」

ジェーン・オースティン

小さい世界の悲喜こもごもを描かせたら誰もかなわないジェーン・オースティン。およそ200年前の小説だが、魅力は色褪せない。

その彼女による「完璧」と言ってよいデビュー作。

「分別」を体現する自律的な姉エリナーと、「多感」の代表者として情緒的に突っ走る妹マリアンの対比が面白い作品だが、エリナーがいかに打算的で感情に揺さぶられているのかを丹念に深読みしていくとさらに味わいが増す。

次作「高慢と偏見」や「マンスフィールドパーク」が世間的には有名で評価も高いが、エンタメ性は本書が上回る。

まさにオースティン入門に最適なので、これをまず読み、次に「高慢と偏見」を読んで、ついでに「高慢と偏見とゾンビ」と読んでいくルートがおすすめ。

       高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長) 

MARCH in 2020

 「鏡は横にひび割れて」

アガサ・クリスティー

アガサ・クリスティーといえば「名探偵ポアロ」シリーズが有名だが、個人的には「ミス・マープル」のシリーズの方が気に入っている。その中でも好きなのはこの1作だ。

ミス・マープルは老婆である。体力も膂力もない。その老婆が「人生経験」だけで犯人を見抜き、トリックを見抜き、事件を解決へと導くのである。

そして時には、第二の犯行を未然に防いだりもする(これは金田一耕助にはできない芸当)。「ババア、超かっけー!」と読みながら震えるわけである。

本作では、誰の恨みも買わないような人の良い中年夫人が毒を盛られて殺される。意外な犯人(シンプルに考えれば自明なのだが)、意外な動機に読者は驚くかもしれない。しかし、マープルは冒頭より完全にお見通しなのである。ババアだから。

ミステリ史上最強の老婆の魅力がふんだんに詰まった作品。ミス・マープル最初の事件である「牧師館の殺人」も良いが、次に読むならこれがおすすめだ。

       高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)