「ほがらか人生相談」朝日新聞出版 著者:鴻上 尚史

鴻上尚史の「あとがき」が好きだった。
よく読んでいたのは大学生の頃だ。「ハッシャ・バイ」「トランス」「スナフキンの手紙」などの戯曲を買い、読みふけっていた。
実際の舞台はどれも行かずじまいだった。
どこで公演されているかも知らず、調べる手段も気概もなく、そもそも観劇に回せるお金がなかった。
90年代後半当時、それらの舞台は既に過ぎ去ったものだった。
私は古生物学者が生痕化石を見て恐竜の生活を想像するように、安いアパートの部屋に独りこもって戯曲を楽しんでいた。
戯曲の最後には必ずあとがきがついていて、なぜこの戯曲が書かれたのか、また演劇とは何かということについて、とても明解に、且つ詩情豊かに書かれていた。
そしてまた、劇団主催として若い役者に囲まれ、彼ら彼女らとともに様々なトラブルに直面し、一緒に悩みながら舞台を作ってきた苦難の吐露でもあった。
本書を読むと、その「あとがき」を思い出す。
「人生相談」を受け止め、整理し、問題を分け、ひとつひとつの原因を可視化し、解決の可能性をそれぞれ共に探る。
この「ほがらか人生相談」のあとがきにあるように、これは著者がずっと舞台で行ってきた「演出」と実は不可分であり、だからこそ私達はプロの仕事に胸を打たれるのだ。 高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)