「アイの物語」角川文庫:山本弘

人工知能元年、と言われて幾年かが過ぎた。シンギュラリティとやらがどうやら迫っており、放映中の仮面ライダーもそれが物語のベースになっている。
で、結局何が起こるのかわからないまま日々は過ぎているが、私の中には一つだけこれはという予測があって、なにかと言えば「人工知能が人間を駆逐しようするような未来は来ないだろう」という楽観だったりする。
なんせシンギュラリティである。人間を超えてしまうものが人間のような愚かな真似をするはずがない。もっとエレガントなやり方での生存や繁栄を実現するはずだ。
この「アイの物語」はそういった未来予測をテーマにした連作短編集であるが、大半は人工知能の話ではない。むしろ人間の不完全さを描くSFだ。
もちろん小説のような未来は来ないかもしれないし、「人間の雑事を人工知能が全部肩代わりする」なんてことにもならないかもしれないが、考えの一助にはなるだろう。それはやはり、この小説の大きな要素を占める「フィクションの力」であり、この小説は「そんな力のある小説」の一つなのだ。
高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)