「生物と無生物のあいだ」講談社現代新書:福岡伸一

「サイエンス読み物を求めて買ったつもりが、読み終わったら文章に感動していた」というケースが2例ある。1つ目はスティーブン・ジェイ・グールド「ダーウィン以来」であり、二つ目が本書だ。
ニューヨークの街並み描写から始まる第1章で、その筆致が辿る情景の鮮やかさと、野口英世像からウイルスの話へ導入されるという巧みな構成に、腹の底から唸った。この人はすごい。すごいすごいと感激していたら、あっという間にベストセラーになった。さもありなん、といった気分であった。
13年経った今改めて読み返して、やはり文章の巧みさに鳥肌が立つし、センスに感動する。「タンパク質のかすかな口づけ」という章題にもしびれる。第一に何よりもわかりやすい。ウイルスとは何なのか、生命とは何なのかについて読む前におぼろげだった輪郭が、くっきりと感じられるようになる(気がする)。間違いなくここ20年に出たサイエンス読み物の最高峰であろう。
高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)