「真夜中の子供たち」岩波文庫:サルマン・ラシュディ

「真夜中の子供たち」が文庫化した。ラシュディの別の著作をめぐる世界的な騒動と、付随して起こったと見られる凄惨な事件についても降り積もる時の塵の中に埋もれてしまったということか。何にしてもめでたい。
さて、本書はマジックリアリズム小説である。語り手サリームは過去三代に遡り、自身を織り上げてきた運命の縦糸横糸について一つ一つ描き出していく。そう、ガルシア=マルケス「百年の孤独」やグラス「ブリキの太鼓」と同じ手法だ。知名度こそこの2作品に劣るが、この2作品に並ぶどころか超える興奮を「真夜中の子供たち」は秘めている。
ひっそり超能力を使える子供として成長するサリームや仲間の辿る道程は、インド独立/パキスタン分離の歴史と重なり、様々な暴力の波に晒され続けていく。
時代の激動を物語るのに「マジックリアリズムという装置だけがそれを可能にしたのだ」と読みながら非常に納得できるし、何より読んでいて面白い。とにかく手放しでお勧めする。全人類必読の傑作である。
高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)