「ノルウェイの森」 講談社文庫:村上春樹


高校生の頃、「なんかエロいらしいぞ」という噂を聞きつけ手を出した。
衝撃だった。初めて読む類の珍妙でいてあまりにも的確な比喩表現に打ちのめされた。
「大人の読むベストセラーとはこういうものか」と当時の私はひどく感激したが、
以後「ノルウェイの森」に匹敵するようなベストセラーにはなかなか出会えなかった。
さて、この小説は一言で片付けると「春樹meets東京」。
東京という強大な都市(システム)に呑まれる個を悼み、
鎮めるレクイエムであろう(あくまで私の見解ですが)。
主人公が嫌う連中も、親しく付き合う連中(永沢さんや緑)も、
否応なしに罪を背負わせてくる。
であるからこそのラスト、何もかも喪失した「僕」は
緑に対しての自分の今いる地点を、座標を見失うのだ。
高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)