医者、用水路を拓く

「医者、用水路を拓く」

石風社:中村哲



2019年に彼の地で兇弾に斃れた医師の、灌漑事業における失敗と成功の記録。

書かれたのはおよそ15年前ほどの状況で、

現在さらに灌漑と緑化は進んでいると聞いている。


中村哲先生のことを思う度、「使命」とは何かということを考えさせられる。

文字通り命を使い果たして立ち向かう「使命」とは何か。

そんなものは自分にあるのか。

具体的な方針も道も、示してくれる者はいない。


使命の見えぬままダラダラと生きてしまった凡夫たる我々は、

使命を見つけた人、使命に全身全霊を注ぐ人を、勝手に羨ましく思う。

時には妬んだりもあるだろう。

しかし時には、使命こそが何よりも人を苦しめる。


本書の端々に書かれた家族との挿話に、子を持つ親としては涙が止まらなかった。

さらりと触れられているが、それだけに胸を打つ。

さぞ苦しかったろうと思う。

あまりにも気高い人生がここにあった。


「人の命は地球より重い」という言葉は、

それだけ聞くと既に使い古されていて空疎だが、

偉大な先人たちがその行動によって内実を注ぎ込み、

確かな手応えと温もりを与えられ続けてきた。

本書もまたそこに注がれる熱い血潮だ。  


高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)





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