「鏡は横にひび割れて」
著者:アガサ・クリスティー

アガサ・クリスティーといえば「名探偵ポアロ」シリーズが有名だが、
個人的には「ミス・マープル」のシリーズの方が気に入っている。
その中でも好きなのはこの1作だ。
ミス・マープルは老婆である。体力も膂力もない。
その老婆が「人生経験」だけで犯人を見抜き、トリックを見抜き、
事件を解決へと導くのである。
そして時には、第二の犯行を未然に防いだりもする
(これは金田一耕助にはできない芸当)。
「ババア、超かっけー!」と読みながら震えるわけである。
本作では、誰の恨みも買わないような人の良い中年夫人が毒を盛られて殺される。
意外な犯人(シンプルに考えれば自明なのだが)、意外な動機に読者は驚くかもしれない。
しかし、マープルは冒頭より完全にお見通しなのである。
ババアだから。
ミステリ史上最強の老婆の魅力がふんだんに詰まった作品。
ミス・マープル最初の事件である「牧師館の殺人」も良いが、
次に読むならこれがおすすめだ。
高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)