「白鯨」
ハーマン・メルヴィル

10代の頃、「世界の名作文学」を読もうとしてある本で挫折した。
それが『白鯨』だった。
完全に読み方をわかっていなかった。
国語の授業で習うような読み方しか私にはなく、白鯨はそれとは全く逆の、
洋上の嵐に揉まれて磨かれ抜いた言葉たちであり、テクストであった。
それから10年以上経ち、改めて挑んだ白鯨は素晴らしかった。
「世界の名作文学」だなんて構える必要もない、
素直に笑えて素直にむさ苦しい小説だった。
船は(誰もが知るように)狂気のエイハブ船長の元で破滅へと向かうのだがその過程が、
一つ一つの語り口が楽しい。
船に乗り込む前から、安宿で食人族の銛打ちクィークェグと同衾する羽目になり
(しかもその後親友になるあたり)爆笑である。
古典はたしかに偉大だ。
だがその偉大さは「権威的である」という意味ではなく、
普遍的な親しみや可笑しさで、
時空を超えて輝き続けるという点において見出されるものなのだ。
高崎立郎(ジュンク堂書店高松店 店長)